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ジャンプ一発、聖乙女たちを見下ろす建物の上へ飛び降りる。
「そこまでだ、ピュアレジェンズ!」
「来たわね、悪の大幹部!」
新たな敵の出現にどよめく人々、悲鳴をあげる小学生たち。カメラのフラッシュが炸裂する。
……恥ずかしい。ああ、こっ恥ずかしい。
だがここからだと、ヨメを狙うカメラ小僧どもも良く見える。こっちに向かってしきりにブーイングする奴もいる。
ほとんど腹這いになってローアングルに構えるてめえは、ヨメのパンツを狙ってやがるな!
許さねえぞ、てめえら。流れ弾がそこへ行くからな。そのカメラ、絶対ぶっ壊してやる!
「今日こそ許さんぞ、貴様ら覚悟しろ!!」
「ちょっとあんた、どこ指さしてるの! そっちは一般人よ!」
「でね、そいつったら、ほんと憎ったらしいの! やたら強くて、そのくせ何の罪もない一般人を狙うのよ!」
「ふーん……」
一日の仕事を終え、ようやく帰り着いたマイホーム。ヨメの笑顔と手料理が出迎えてくれたが。
「今日だって、モンスターは何とか倒したけど、敵の幹部は取り逃がしちゃって……。あーもー悔しい! あいつがいる限り、またどっかでモンスターが出現しちゃう!」
「そっかぁ、大変だねえ」
ヨメはおたまを振り回し、憤慨しきりだ。
着ているものが変わっただけで夫の声を聞き分けられないヨメの、天真爛漫さというかおっちょこちょい加減を、この場合、俺は嘆くべきなのか喜ぶべきなのか。
「なのに腹立つったら! あんな卑怯者にきゃあきゃあ言ってる女の子がいるのよ! ちょっとカッコいいからって、みんな、あいつの本性がわかってない! あいつは悪の手先、みんなの敵なの!」
「うん……、わかった。お前の気持ちはわかったから、その話はもうやめにしないか?」
「え? ――あ、もしかして、あなた、ちょっと妬いてる? あたしがあいつのこと、カッコいいとか言っちゃったから。ううん、違う、全然違うの! そりゃあいつ、ちょっと背が高くて、スタイル良くて、決め台詞とか決めポーズとか華々しくて……、でも違うの! だってあいつ、悪いヤツなんだから! だから、ほんとは全然、全然カッコ良くないんだから!!」
「う、うん……、うん――」
頼む。頼む、ヨメ。そのくらいにしてくれ。
その悪役は……俺だ――。
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