第1章

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 あちらは夢と希望の異世界に突如生まれた暗黒の意識。そうそう仲間も増えないし、人間社会にも詳しいはずがない。手足となって働く部下として、この社会で暮らす人間を雇うしかないのだ。  もちろん、あちらさんが日本円を支払ってくれるわけもないので、見返りは悪の波動エネルギーの提供という契約だ。社内の電気代が節約できるだけでなく、現在うちの会社が所有するダンプやブルドーザーなど工事車両の半数以上がガソリンではなく謎の異次元エネルギーで動いている。でかいんだぞ、これ。  うちとしてみれば、悪のモンスターが暴れて道路や建物が損傷すれば、それを修復する仕事も増える。一石二鳥だ。公共工事を発注する自治体には内緒だが。  で。動植物や時には家電をベースにするモンスターは悪の帝王サマが怨念パワーで生み出すが、それをサポートし、人語を話せないモンスターの代わりにヒロインたちをどやしつける悪の幹部役は――。 「いいなー、先輩。ネット上でもけっこう話題なんすよ。ピュアレジェンズと対峙する謎の美形悪役って!」  派手なアイマスクで顔の半分も隠して、美形もくそもあるか。 「あ! アシカクン、やられちゃいそうっすよ! 先輩、急いで急いで!」  戦闘現場では、きらきらきらーっとまばゆい光とともに無数の羽根が散っている。武闘派ピュア・オディールの固有技が決まったらしい。残るはピュアレジェンズ三人の力を合わせた必殺技のみだ。  俺はアイマスクをつけ、もそもそとマントを着込んだ。 「先輩、暗いっすよー! やっぱソコは、『ソウチャーク!』とかって、決め台詞言わなきゃ!」 「うるせえ!!」  誓って言う。入社するまで俺は、うちの会社がこんなことやってるなんてまったく知らなかった。知っていたら入社するものか。  だが、このご時世、こんな仕事はできませんといったん中途退職してしまったら、もう一度正社員になれる可能性はきわめて低い。ヨメとのささやかな幸せを守るため、俺はヨメに内緒で悪の幹部を演じなければならないのだ。  マントを羽織ると、一瞬の発光とともに俺のビジネススーツがド派手な軍服調のコスチュームに変わる。これもきっと、うちのヨメが変身できるのと同じ理屈なんだろう。 「先輩、がんばって! オレ、こっから応援してますから!」 「お前も無名のドロドロ兵士役その一だろうが! さぼんな!!」
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