1、灯りのないレストラン

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1、灯りのないレストラン

 雪どけの大地は北風にもそよがず、堂々と陽光に照らされていた。  人気のない通り道、遠く後方に置いてきた、湿気によってぐにゃぐにゃとひしゃげた段ボール箱を思いつつも、獣は道を進む。  泥に汚れ、蠢くぼろ雑巾のように見える獣は、その見た目から峻厳(しゅんげん)たる人生を送ってきたに違いない。  黒い体毛に包まれたそれは、猫と呼ばれる生物であった。  元飼い主の名前も思い出せず、自分の名はなんだったかなあと、塗りつぶされたような青い空を見上げていると、霜のきらめく道に影がかかる。  振り返らずとも、背後には大きな気配が感じてとれた。 「あなた、捨てられたの?」  女性の声だった。  また人間なのか、と猫は口の周りをなめる。  逃げ出したかったが、そんな体力も残っていなく、その小さな黒い体はひょいと持ち上げられてしまった。 「今日から君は私の家族」  齢十六ほどの女性は、笑った。  猫は、ないた。  
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