3、灯りのない帰り道

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     湿気を含んだ段ボールは、地面にはりついていた。  身体を預けても傾かない小さな部屋の中、黒猫はただ丸まっていた。誰にも迷惑をかけたつもりはなかった。 「おい、捨て猫だぜ」 「ほんとだ。どうする?」  まだ幼い声の、小学生くらいだろうか。それくらいの男の声が二つ。黒猫の耳がぺたりと折れる。  給食の残飯でもくれようものなら良かったのだが、投げ込まれたのは石だった。硬い、鋭い、石コロは猫の身体に幾度となく襲い掛かる。  黒猫は逃げる体力もなかった。  死体のようにジっとして。やり過ごす。すぐ飽きるだろうと、終わりを待っていた。  少年たちは、ただただ笑っていた。  ずっと笑っていた。  やがて、陽が暮れた。凍てつく外気が傷に染みて、痛みに一人、猫は鳴いた。あの疎ましい人間の声が、忘れられなかった。  冷たい風の音が、無情にも駆け抜ける。    
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