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「盗まれたんだから、仕方ないでしょ。」
「あ”?んなわけねえだろ。天下の生徒会メンバー様の靴を誰が盗むってんだよ」
「…違うよ。今はただの一般生徒だよ、俺。君も知ってるでしょ?」
ああ、そうだったか、と狼くんが少し顔をしかめながらつぶやく。
「でも、それだけで…なんでお前の靴が盗まれんだよ。」
ああ、狼くんは知らないのか。
俺がいじめにあってるってこと。
元はと言えば、狼くんたちだって毬藻信者の一端で、いじめに関わってるんじゃないのか。
それなのに、狼くんは知らないのか。せめて、せめて、知っててくれてもいいんじゃないのか。
だって、だって…あんたらだってこの騒動の原因の一端を背負ってるんじゃないのか。
そこまで、俺に興味もない人たちが原因で、なんで俺が苦しまなくちゃ…。
「おい、佐久良!…佐久良?」
狼くんの声にハッとする。俺は今、何を考えてた…?
「ごめんごめん、まあ、信じてくれなくてもいいけどさ、どっちにせよ俺は用意できないんだよ、シューズが。だからさ、今日だけはこれで走るんでいいでしょ。」
そういって上履きを指す。
狼くんは顔をしかめて、あっそ。と吐き捨てた。
うん。これでいい。
狼くんが俺の上履きについて怒ったのは意外だったけど。
普通はみんな、俺の存在なんてどうでもいいはずで。
だから、俺が、上履きだったって、苦しんでいたって、別に…
「ん、これ履いてやれよ。上履きじゃ走れねえし汚くなんだろ。」
狼くんはそういって俺にもう一足あったらしいシューズを渡してきた。
「…え?」
「だから、それ履いてすんだよ練習。お前にもちゃんとやってもらわねえと。」
渡されてきた靴になぜか、なぜか、涙が出そうになったんだ。
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