体育祭

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あ、目の前にお母さんがいる。お母さん、あのね・・・。 話したいことがたくさんあるんだ。 なのにお母さんの様子が突然おかしくなる。 すごい形相でこっちに手を伸ばしてくる。 どうして・・・。 その言葉は声にすらならなかった。 ーーーーーー ふっと意識が浮上する。 痛い・・・。全身がズキズキと痛む。 どうしたんだっけ・・・。 そっと目を開ける。 すると目の前に椎名先生がいた。 「よかった、目を覚まして。大丈夫か、どっか痛くないか。」 「んー、なんか全身が痛いかもしれない」 はぁ、と椎名先生がため息を吐く。なんか悪いことしたかもとビクッとする俺に椎名先生は慌てていってきた。 「別に佐久良を責めてないよ。むしろ心配してる。幸いどこも骨は折れてないけどね。今の君は、少しの傷も致命的になりかねないから。しかも、一方的な暴力でしょ、これ。喧嘩じゃないよね。これはもうイジメだよね。」 ふぅ、と息を吐いた椎名先生は続ける。 「生徒会が重要なのもわかる。君がどれだけ学園が好きで、学園にいたいって気持ちもわかる。でも、この状況でも、この学園にいたい?君は、大切だった生徒会からも、学園でも除け者にされてるでしょ。君への誹謗中傷も知ってたよ。そこまでなら君に相談されない限り干渉しないと決めてた。でも、これは命に関わることだ。こんな暴力がまた起これば、君は死にかねない。佐久良、もう一度聞く。まだこの学園にいたい?入院して治療にはげもうとは思わないか?」 椎名先生は正しい。こんな状況で学園にいても楽しくもなんともないのかもしれない。椎名先生は本気で心配して、俺に入院して欲しいと思っているのだろう。だからあえて厳しい言葉で俺に提案してきたんだろう。 でもね、椎名先生。 俺は、別に学園が好きだから執着してるんじゃないんだ。 そんな前向きで綺麗な理由じゃなくてさ。 俺は、学園が俺の最後の居場所だと思うから執着してるんだ。 きっと学園にいられなくなった俺は死んだも同然だと思うんだ。 そんな後ろ向きな理由なんだよ。椎名先生。 それにね、ここには俺の人生で唯一幸せだった思い出があるんだ。 生徒会のみんなでさ、笑いあった思い出が…。 だからさ、今が辛くてもここにいたいんだ。 なんてことは誰にも言わないけどさ。 「うん、わかってる。ここにいることがどんなにリスクがあるかってことは。でもね、椎名先生。俺は入院する気も、学園から離れる気もないよ。」 そういって笑った俺に椎名先生は困ったように笑った。 そしてぐちゃぐちゃと俺の頭をかき回してから 「そうか。じゃあ、狼に番犬を頼むとしますかね。」 なんて変なことを言い始めた。
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