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そのまま、何事もなく体育祭への日々が過ぎて行く。
シロとは、あの日からなぜか毎日のようにお昼ご飯を一緒に食べるようになった。
それとあわせて、嫌がらせの被害も減った。
もしかすると・・・なんて思うけど、確信できるほど無垢でもないし、信頼もまだしきれてない。
でも、少しだけ毎日が楽しくなったっていうのは俺だけの秘密だ。
シロと少しだけ仲良くなってからというものの、シロが練習中にしょっちゅう俺に「休憩しろ」といってくれるおかげで最近は無理はしていない。
山中くんも俺が少し”お願い”をしたからちゃんと最後まで出てくれるようになった。
そのおかげで爽やかくんも態度が若干だけど緩和した。
そういえば、この間あった練習での模擬試合で1位になってから、クラスの人たちも少しずつ俺に話しかけてくれるようになった。
少しずつだけど、確実に俺の周囲の環境が良くなって行く。
体育祭まで残り二日に迫った今日の練習が終わって、いつもはなぜかシロが無言で俺についてきながら一緒に帰るんだけど、今日はシロは用事があるらしく一緒には帰らなかった。
「おう、久しぶりだな、佐久良。」
無駄に低くて色気のある声の方に顔を向ける。
「あ、いいんちょ〜!おひさー、今帰り?」
我らが風紀委員長の神無月時雨さまが立っていた。
「ああ。そっちもリレーの練習に精を出していたみたいだな。」
「委員ちょー見てたの!?もーエッチなんだからぁ。」
ちょっと茶化すと委員長は呆れた目を向けてくる。
「全く、お前は・・・。まあ、でもお前がA組でうまくやれてそうで安心した。」
そういって優しく微笑みながら、俺の頭に手を置く。
委員長、俺のこと心配してくれてたんだな・・・。
ちょっと嬉しい。委員長にとって俺は煩わしい存在でしかないと思ってたから。
「うん、いいんちょーのおかげでちょっと最近楽しくなってきたんだ。」
少し照れくさくて下を向いてはにかみながら答える。
そうか。と呟いた委員長はクシャクシャっと俺の髪をかき回した。
「じゃあ、頑張ってる佐久良に褒美をやろう。」
突然、委員長が仰々しく偉そうに話し始める。
「え?なになに〜?突然。」
「体育祭終わったら、どっか佐久良の行きたいところに連れて行ってやるよ。」
「え?ほんとー?じゃあね〜・・・」
そういって俺はここから1時間でいける距離の有名な遊園地の名前をあげた。
「ん?そんな近場でいいのか?いつでもいけるじゃないか。別に海外とかでもよかったんだぞ?遠慮しなくても、「別にいいの」・・・そうか」
「俺は、昔からあの遊園地に行くことが夢だったんだ〜。」
委員長は少し怪訝そうな顔をした後に、まあ佐久良が行きたいとこがそこならいいんだ、じゃあ手配しておく。といって自分の部屋に帰っていった。
そうだよね。きっと委員長は疑問に思ったはずだ。割と有名な企業の社長の息子の俺があの遊園地にいったことがないなんて思ってもないだろう。だから、なぜわざわざあそこに?と疑問に思ったんだろうけど。
俺はそこに一度もいったことがない。別に行きたくなかったわけではない。むしろ憧れてた。テレビに映る、園内にいる人たちは魔法にかかったみたいにキラキラとしてて。自分もそこに行けば夢の一部になれるんじゃないかって思ってきた。
でも一度も連れていってもらったことはない。だって、俺は連れていってもらう資格のない人間だったから。
いつでもいけるって委員長は言うけど、俺はいつ行けなくなるかわからないんだ。
きっと最初で最後だからさ、一回くらいこんな俺でも楽しい思い出を残してもいいですか。
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