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「ホテルで良い?」
龍二が頷くのを見て、環は車をゆっくりと出した。
時間がなかったが、彼に深入りしてしまいそうで怖かった。
ラブホテルに行くことで、行為を軽んじたかった。
人の気配が残るラブホテルは苦手だったが、意識が分散されて丁度良いかもと思った。
気持ちなどないんだと。
価値を下げる。
黒い姿の環の髪は後ろでひとつに纏められ、淡い光の中、浮かび上がるうなじに息を飲む。
投げ出されたような左手と、自在に車のハンドルを操る右手の手首は細く、爪は短く切り揃えられていた。
お葬式だからと言うわけではなく、環は元々アクセサリーを着けない。
ナチュラルメイクに飾らない。
いつもは可愛らしいイメージだと言うのに、今日は息を飲むほどの美しさがあった。
彼女の横顔に見惚れていた。
龍二が左手を掴むと、環は少しだけピクリと反応し、また運転を続けた。
龍二の案内を受け、やがて車はコテージタイプのラブホテルに到着した。
「ここで良い?」
環はコクリと頷いて、車を停めた。
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