Olimpic

33/40
前へ
/389ページ
次へ
「お疲れ様でした。」 「お疲れ様でした。」 頭を互いに下げ、終業時のように挨拶をした。 「何処か行く?今日時間は?」 「大丈夫。何時でも良いよ。 龍ちゃんは?」 「8時か9時かな。 ラブホテルでも良い?」 環が頷くのを見て、彼は車を出した。 そこまでの道中、環と龍二は手を繋がなかった。 頭に占める割合が増えるほどに、容易に相手に触れることすら躊躇いが生まれる。 「あっ、この曲…。」 「カヴァーアルバムが出てたから、この前買ったんだ。」 「あたしも買った。」 それはつい先ほど、環が口ずさんでいた曲だった。 ふざけてキスした時に流れていたのはオリジナルだった。 彼もまた自分と同じように思い出の曲として、捉えてくれているのだろうか? 「このカヴァーしている人が出してるあの曲わかる?」 彼は環が好きな曲名を言った。 「わかる。あの曲好き。」 「いいよな、あれ。」 「うんっ。」 勢い良く顔を上げた環は、ハッとして顔をまた下げる。 自分はここに居てはダメな人間だ。 車通りの少ない道を数分程度しか走らないが、環は誰からも見咎められないように、顔を隠した。
/389ページ

最初のコメントを投稿しよう!

64人が本棚に入れています
本棚に追加