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「お疲れ様でした。」
「お疲れ様でした。」
頭を互いに下げ、終業時のように挨拶をした。
「何処か行く?今日時間は?」
「大丈夫。何時でも良いよ。
龍ちゃんは?」
「8時か9時かな。
ラブホテルでも良い?」
環が頷くのを見て、彼は車を出した。
そこまでの道中、環と龍二は手を繋がなかった。
頭に占める割合が増えるほどに、容易に相手に触れることすら躊躇いが生まれる。
「あっ、この曲…。」
「カヴァーアルバムが出てたから、この前買ったんだ。」
「あたしも買った。」
それはつい先ほど、環が口ずさんでいた曲だった。
ふざけてキスした時に流れていたのはオリジナルだった。
彼もまた自分と同じように思い出の曲として、捉えてくれているのだろうか?
「このカヴァーしている人が出してるあの曲わかる?」
彼は環が好きな曲名を言った。
「わかる。あの曲好き。」
「いいよな、あれ。」
「うんっ。」
勢い良く顔を上げた環は、ハッとして顔をまた下げる。
自分はここに居てはダメな人間だ。
車通りの少ない道を数分程度しか走らないが、環は誰からも見咎められないように、顔を隠した。
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