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「お疲れ様です。俺のこと覚えてます?」
その声に環が振り返ると、見覚えのある顔があった。
見たことはある。
彼の雰囲気の中に、何かが掴めそうで掴めない。
同じ会社の人間なのだから、見覚えがあるのは当然なんだが、そうではない。
ラフになり過ぎないデザインシャツとパンツスタイルの長身の男性。
変わらないぐらいと思われる年齢。
その男性を思い出そうと記憶を探ると、ようやく少しだけ思い出せた。
「あっ、確か施工部の…。えっと…。」
思い出せない環に、彼はそっと自分の名前を告げた。
「はい。本村龍二です。
近所に住んでるんですけどね?」
本村龍二ーーー、入社四年目、施工部建築課に属し、主に内装工事を担当。
勤務態度は真面目で上司からのウケも良いし、熱意もある。
瞬時に脳内のデータベースから引っ張る。
きっと、女子からのウケも良さそうな印象が持てる。
これ以上、見るのは良くない。
環は余計なモノを見過ぎないよう、注意して龍二を見るフリをして視線を自然に逸らした。
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