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彼の後方にあるのは、小上がりになった壇上。
ひとつだけ何故かカウンターチェアがあり、何に使うんだろう?
場にそぐわないことを考える。
カラオケセットがあるから、弾き語りとか?
いや、きっと老人の集まりなどで、マジックショーとか?
『何を考えているかわからない。』
『俺のこと、ちゃんと見てる?』
過去の恋人に言われた言葉たち。
それは、こういうどうでも良いことを考えている環に向けられ続けた。
見たくても見れない理由。
見てしまったならば、それは別れに繋がってしまうかもしれない。
『水のようにありなさい。
流れに身を任せ、無色透明でいなさい。
何かを映すような、澄んだ水であれ。
お前を泥水には変えないから。』
ふと、その言葉が思い出された。
首を傾げると、目の前には本村が見え、環はふと自分を取り戻す。
それは誰にも気付かれないような短時間のことだった。
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