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駐車場に着くと大きな時計台の時刻は8時前をさしている。
前回と同様に、彼の車はその下に停められていた。
車体に背中を預けるように佇んでいた。
哀愁が漂い、物憂げな表情。
今日も彼には赤が見えた。
それは、ただひたすらに、直向きなまでの赤だった。
縁は大気に溶けるように朧げに揺らいでいる。
環に気付くと手を上げ、自然な流れで龍二は環の車の助手席に乗る。
「あたしの方が遅くなっちゃったね。飲み物、何が良いかわかんなくて、コーヒーにしたけど良かったかな?」
「ああ、ありがとう。コーヒーで良いよ。」
触ったカップが温かかった。
まだ生ぬるい空気でスーツを着ていた龍二には冷たい方が良かった、などという考えに至らないのは仕方ないことだった。
冷え性の環はいつもホットを飲んでいたし、櫂もそれに文句を言ったことはなかった。
櫂はいつだって、一緒にいる時には環を優先させ続けていた。
一緒にいれない分、いる時には精一杯の愛情を彼女に向け、彼なりに彼女を愛していた。
それがたとえ、純粋に環だけに向けられていたのならば、別の未来が見えたのかもしれない。
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