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異動になったと告げた時、未沙はまるで自分のことのように喜んだ。
ささやかに、何時もより豪勢な料理を食卓に並べた。
まだそんなに手際は良くないが、サラダに唐揚げ、フライドポテト、コンソメスープ、手作りのケーキを作っていた。
どれだけの時間を要したのだろうと、彼女の健気さに胸が痛んだ。
先に裏切ったのは未沙だと、それにより自分のことを棚に上げていたという事実から目を背けていた。
だが、こうして毎日の食事の支度や家事をしてくれる未沙を見ると、罪悪感が出てくる。
そして、素直に自分を見つめる彼女がとても可愛く、愛おしく思う。
何度も謝り、罪を償おうとしている彼女がこっそりと泣いているのも知っていた。
そして、何より一緒に暮らしているのに、互いが別の方向を向いていることが嫌になった。
彼女に欲情はしないけれど、今、彼女と別れることは出来ない。
親からも結婚の話の進み具合を確認され、おそらくは会社もそれを見越しての異動にしてくれた。
そして、実家からも離れていないこの場所で、周囲の反応が怖かった。
その夜、自分を奮い立たせ、迫ってきた未沙を抱いた。
環とするのとは全然違ったが、一心不乱に自分へと向けられる愛情を大切にしなければと言い聞かせながら、義務感で抱いた。
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