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「ね、じゃあもう会わない方が良いんじゃないかな?」
環はもう洋服を着て、乱れた髪を手櫛で綺麗に纏め上げていた。
「…時期が来たら自然に離れたら良くない?」
龍二が発した言葉は、繋ぎ止めるには弱々しいものだった。
確約も出来ず、愛の言葉を発することすら出来ない彼が、唯一見せれた最大限の己の心情を出した言葉。
「…ん、そうだね。」
環は傷付きたくなくて、龍二の言葉に賛同した。
「スーツ…喪服、ちょっと大きくない?」
「ん?あぁ、これ?兄貴のお下がりなんだ。」
「お兄さんいたんだ?」
「近くに住んでるよ。同じ町内に実家があるんだ…。ま、最低な兄貴なんだけどね。
身長は変わんないぐらいなんだけど、あっちの方が筋肉質だから。」
「…最低って?仲悪いの?」
「いいや、仲は良い方だと思う。ふたつ上だけど、よく後を追いかけて遊んでもらってたし。
…ただ、兄貴は仕事仕事で、家のこととか、同居してる父母や子供のことも全部義姉に任せっきり。愛情を感じらんねーんだ。」
「…ふふっ、お兄さんのこと大好きなんだね。ううん、家族が大好きなのか。」
その通りだと思った。
図星過ぎて顔が熱い。
いつだってかっこ良く 、余裕があった兄が仕事で思い悩む姿なんて見たくなかった。
義姉と結婚して、それは殊更顕著になる。
夜中までの残業。
毎晩のように飲み歩き、義姉に暴言を吐く。
そんな兄を見たくなかった。
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