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おでと兄ちゃんは同時に地面を蹴ったんだな!
「グルカアアアアアアアアアアア!!!!」
「ウホオオオオオオオオオオオオオオ!!!」
ザシュン
ドカッツ
おでの左腕を兄ちゃんの鋭い爪が切り裂いて、おでの拳に兄ちゃんのあばら骨が砕けた感触がしたんだな。
「がはっ!?」
兄ちゃんが、口からいっぱい血を吐いて地面に倒れたんだな!
「…ウホッ…! ウホッツ!」
兄ちゃん…! 兄ちゃん!
おでは倒れた兄ちゃんを右手で抱き上げるんだな。
「がはっ! ごほっ! ごほっ!」
ああ、きっとおでの全力で兄ちゃんのあばら骨全部砕けたんだなどうしよう早く…早く…あで?
何だか体に力が入らないんだな…?
「はっ…はっ…? エテき ち? ど して? ここドコなんだな ゴホッ! ゴホッ!」
兄ちゃん…よかった、角も牙もそのままだけど目の色がいつもの黄色みがかった茶色なんだな。
「エテ吉…お前どうしたんだな! 腕…腕が…ゴホッ ゴホッ!!」
兄ちゃんびっくりしちゃたんだな、おでの心配なんていいからゆっくり息を整えてあまり動かないで…なん だ な。
「爪っ 血がっ? そんな…これ 兄ちゃんがやったんだなっ? ごほっ! エテ吉っ なんでなんだ な 鬼になればお前に手を出さないって あの鬼がっ!」
兄ちゃん、泣かないでっ…元に戻ってよかったんだな…。
目が霞むんだな…血がいっぱい出ちゃったん だ な。
どさっ
「え て吉っ…」
おでは、もう力が入らなくて兄ちゃんも抱えてられなくて気が付いたら地面に倒れてだんだな。
シャラリ
キレイな鈴の音。
ボンヤリした視界に、ふわりと桃色の着物。
「ふふふ…久々によい見世物であった。 これほどの出来はあの村以来じゃ」
まるで、真冬の氷柱を叩いたようなきれいな女の声がしたんだな。
ガシッ
女の声は、うつ伏せになってたおでを足でゴロリと仰向けにしたんだな。
「やっと、遭えたのう…」
うっとりとした声。
おでを見下ろす切れ長の目、夜の闇なんかよりも真っ黒な長い髪。頭には角。
にぃと嬉しそうに薄く笑う唇には紅が引かれ、隙間から鬼の牙がみえる。
これが、鬼…なんだか綺麗なんだな…。
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