第1章

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肌を刺すような痛いほどの冷気。 カンカンカンとボロアパートの階段を駆け上がり、自室の前でキーを取り出す。 悴んだ手をカタカタと震わせながら、素早く開錠し、錆びた玄関扉がキィィと耳障りな音を鳴らし終えたところで、バタンと響く衝撃音。 その勢いに背中を押されるようにして、廊下へとヘタりこんだ。 「……疲れた。」 くたくたになった体の底から、どっと溢れる溜め息。 座り直したスカートの後部から、ひんやりとした床の温度を吸収しながら、ジリジリとブーツのジッパーを下ろしていく。 くるりと振り返ると、細長い廊下の先に、暖かな光を漏らすリビング戸。 あの扉の向こうに、当然のように暖房をつけて、働きもせずに祝日を過ごすあの男がいる。 もう一度、深い溜め息を落としたところでふらふらと立ち上がり、その明かりの方へと足を進めていく。 私が二人分の生活費を稼ぐために、甲斐甲斐しく休日出勤している間も。 あんたはぬくぬくとひとりお気楽にゲームでもして、暇を潰してるんでしょ? ひしひしと脳髄に競り上がってくるストレス。 それが爆発しないように、一度だけ深呼吸してドアノブに手をかける。 ぐいっと手前に引き開けながら、「ただいま」と声に出そうとしたところで。 両目に入り込んできた人影に、口を開けたまま固まった。
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