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なんとか間に合った。
額の汗を拭い、顔を張り、店の中に入る。
「お客様大変申し訳ありませんが……」
そう最新式の携帯の販売は終わっていた。
ま、まあそりゃあ店先に誰もならんでいないところで気づくべきだよな、はは。
なんて思ってみてもけっこう楽しみにしてた反面ショックがデカいな。
しかしせっかく家から離れたところまできてなにもしないで帰るのはちょっとな。
「………はぁ、帰ろ」
なにかあてがあるわけでもなく誰かといるわけでもない。
素直に来た道引き返す。
しばらく歩いていると一際大きな一軒家が見えてくる。
昔の家の一軒家。
なんていうか、玄関がガラガラって開けるやつで古風があるとでもいえばいいか。
そうだ、ここはほぼ間違いなく俺の家だ。
誰とも会わないようにハシゴを使い二階の自分の部屋に入る。
この作業がなんともいえず嫌なのだが、余計なことは極力避けたい。
「……とりあえず羊羹を食おう」
冷蔵庫は部屋にあるんだ、去年お年玉で買ったわけさ。
常に冷たいコーヒーが飲みたいという願望のために。
なんだかえらそうな絵柄とえらそうな用紙に包まれている。
いかにも私高いよ、みたいな気取り気味のソープ嬢に似ている。
いやソープとか行ったこと無いけどね。
「は?なぜビデオ?」
開けると一本のビデオテープ。
なぜディスクではなくビデオテープなんだ?
あのおばあさん的には羊羹なのか?
至って普通で認知もなく……まさかおばあさんなりのジョークか。
題名もないし。
「ビデオデッキか。仕方ない、買いに行こう」
普段、ここまで行動力がない俺だが気になってしまったものは仕方ない。
それにもしかしたらこのビデオテープが俺の人生を変えるとかそんなめぐり逢いが訪れるかもしれないし。
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