二、 いつも通りのリスタート

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 その一、物語が始まると、強制的に物語に巻き込まれる。  俺がいくら逃げようとしても、決定的なイベント(先ほどで言えば、坂本教諭の怪物化)が始まった後ではもうどうしようもない。  その二、フラグは折れる。  その一を逆に言えば、イベントさえ始まらなければ俺が主人公になることはないということだ。パンを加えて突っ込んでくる美少女を避ければ物語は始まらない。怪しげなところに近づかなければ物語は始まらない。変なサイトにアクセスしなければ、聞こえてきた声に従わなければ、夜中にうかつに出歩かなければ、黒いノートを拾わなければ、物語は、始まらない。  その三、物語に関わらなければ関わらないほど、長生きができる。  これはまあ、物語の始まりが遅くなるのだから当たり前だ。ちなみに俺の最長記録は、十一か月。三月で死んだ。いまだに二年生になれない。  この法則に気づいたとき、俺は決意した。  すべての物語から逃れ、平穏に死ぬのだ、と。  たとえそのあとループしてもいい。一度くらい、普通に生きて、普通に死にたい。老衰で、ゆっくりと、普通の人間のように死にたい。  ありとあらゆるフラグを折りまくれ! 刺激なんて糞くらえ! 主人公など放棄しろ!  俺は、俺の、平穏な人生を取り戻す!  ……ちなみに、この決意をしてから、先ほどのループで二十三回目のループである。つらい。 「煌ー? いつまで寝てるのー?」  ドアの外から聞こえる、変わらぬ母の声。ああ、もう七時五分か。 「あんた、入学初日から遅刻する気―?」 「起きてる、今行くよ」  返事をして布団から体を起こす。立ち上がり、ダイニングへ向かう。朝食の献立は少し形の悪い目玉焼きに、昨日の晩飯の残りのチキンカツ、それとトマトとレタスのサラダ。見るまでもない。いつものことだ。百十三回、一度も変わることのない四月七日の朝食だ。  さて、今回こそ頑張るか。  俺に平穏な人生あれ。 To Be Continued…………?
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