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「マルドゥク神は、強き者を好まれる。あれは強かった。だから、人より早く、神の御元に呼ばれたのだよ」
考え込んでいる様子の少年に、彼は、心配ないと言って笑いかける。
「お前ももっと強くなれば、彼女にまた会える」
ぎゅっと鍵を握りしめたハロは、ぷい、とそっぽを向いて、部屋の出口へと走り出した。
「わからぬか……。まあ、急ぐ必要は無い。マルドゥク神について知りたければ、時間をかけて教えてやろう、それが私の仕事だ」
言い切らぬうちにハロは出て行ってしまったが、
教皇がゆっくり立ち上がった瞬間、
地下にあるこの部屋まで聞こえるほどの、ムシュフシュの巨大な咆哮が響き渡った。
「ふむ、鍵を開けたか」
鳴き声は一度だけで収まり、暴れる音もしない。
そのことが、まだ部屋を出ぬ教皇に、ハロの仕事ぶりを伝える。
「……神はまた、私に新たな『力』をお与えくださった」
彼は微笑を浮かべながら胸の前で印を切り、
そして静かに、祈りの言葉を呟く。
私が神を見限らぬかぎり
神は私を見限らぬ。
神は我らと共にある。
ベル・マルドゥク。
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