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「また、食べてない……」
与えられた小部屋の片隅で、丸くなって眠っている、色白の少年。
ここ数日、彼はそこから、ほとんど動こうとしない。
「お腹すかないの?」
私は、床に置かれている手付かずの食事を、新しく運んできた食事のトレイと交換する。
食事の内容が嫌でも、喉が渇いていたら、水くらい飲みたいはずだ。
それすらも減っていないところを見ると、
この子はまだ、突然見知らぬところに連れて来られて警戒しているのかもしれないな、と思う。
「ほら、毒なんて入れてないよ」
呼びかければ、少年は薄目を開け、美しい翡翠色の瞳を私の方へ向けた。
置いてあった食事のトレイから野菜のかけらをつまみ取り、安全だと見せつけるようにして食べると、
その様子をじっと見ている。
耳が聞こえないわけでは無いらしい。
ただ、それ以上の反応をしない。
もしかすると、言葉が解らないのだろうか?
私が野菜を飲み込むのを確認してから、彼は再び、飽きてしまったかのように目を閉じて、顔を背けてしまう。
「……次は食べてね、また、夜に来るから」
私は立ち上がり、少年を見下ろす。
拾ってきた時から身につけたままの服は小さすぎるし、汚れていて、ちょっと臭い。
ボサボサになった白金色の髪は、洗えばきっと綺麗になるだろう。
はやくお風呂に入れてやりたいけど、まずは食事をとらせて、気持ちを落ち着かせないとな。
この小さな獣が、気が立っている状態だということくらい、
ベテラン調教師の私じゃなくたって、見ればすぐに解る。
暴れて噛みつかれるのは、勘弁だものね。
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