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「うーん、もう十日も経つのに、食事も全く摂らないし、喋らないどころか、撫でても蹴っても反応無し、か……」
私は今日もまた、
きっと手をつけられないまま処分されてしまうであろう食事を運びながら考えた。
「このまま死んじゃったら、教皇さまに怒られちゃうよな」
思案しながら小部屋に入ると、少年はいつもの場所にうずくまっている。
「やっぱり食べてない……。どうして?」
これでも、色々やってみたのよね。
鼻をつまみ、口をこじ開け、ローストした肉を無理やり突っ込んでみても、
彼は噛もうともせず、当然、飲み込もうともしない。
鞭を振るったところで悲鳴の一つも漏らさないので、
普通ならば痛みと羞恥心に泣き出してもおかしくないような仕打ちまで、殆ど試した。
まあ、ちょっとやり過ぎたかなという気もしたから、
せっかく裸であるうちに、蒸したタオルで身体も拭いてあげた。
一体、何が不満だっていうのさ。
「……ねえ、少しだけ、話をしよう」
私は彼の前に立ち、声を掛ける。
やはり反応は無い。
仕方なく、前髪を生え際から掴み、力づくで顔を上げさせる。
「私はさ、教皇さまのペットのお世話と躾をする係なんだよ」
少年は私の言葉など聞こえていないかのように、
精気の抜けたような瞳で、皿の置かれた床をぼんやりと見ていた。
「今はきみも教皇さまのペットだから、きみを世話するのも、私の仕事なの」
ぐったりとしている身体を引きずり起こして、私は彼の視界に入り込む。
「きみは他のペットたちと、少し違うんだね」
教皇さまがこの子を拾ってきた時には、またいつものお戯れか、としか思わなかった。
「教皇さまは、弱ってる生き物を拾ってきては、食事やら、快楽やら、とにかく欲しいものを与えてやることで、その生き物を手懐けることが多いんだ」
そう、だから今回も、簡単な仕事だと思っていたのに。
「きみは飢えて道端に倒れていたはずだろ。それならどうして、この美味しい食事を食べない?」
手応えのない、少年との対話。
そろそろ潮時かもしれないと思い、
私は率直に問いかける。
「きみは死にたいの?」
少年は何も答えずに、
ゆっくりと瞼を閉じた。
「そう……わかった、それなら……」
あれを試す、か。
「きみには次から、毒のご飯を持ってくる。死にたいのなら、それを食べるといいよ」
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