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夕方に少年の様子を見に行った時、
私は本当に驚いた。
「……食べたんだね」
彼がここへ来て以来、初めて、
皿の中身が減っていたから。
「ということは、きみは喋らないだけで、私の言ってることは理解してるんだ」
そのことは、少年との数日間の交流の中で、やっと私が手に入れられた、とても貴重な情報だった。
「苦しいの?」
彼はいつもと同じ場所に居たけれど、
呼吸を乱し、額に汗を浮かべ、頬を紅く染めて転がっていた。
床に落ちたスプーンの周りには、蛍光グリーンに光る毒入りスープが零れており、
少年は、爪が白くなるほど力を込めて自分の胸を押さえ、
その身体は小刻みに震えている。
「でも、まだ死にそうにないね」
私はそっと彼の側に寄り、
汗に濡れた前髪を指先で梳かしながら、耳元に優しく声を掛けた。
「名前を教えてくれたら、もっと強い毒をあげる。それを食べたら、今度こそ死ねるかもしれないよ」
私の言葉を、少年は理解しているはずなのだ。
苦しげな呼吸の中には、時おり小さな呻き声も混じっているから、
声帯が機能していないわけでもないだろう。
本人が答えようとすれば、答えられるに決まっている。
「ねえ、返事をしてよ」
しかしそれでも彼は言葉を発さず、
沈黙を守り、
ただひたすら、毒に侵される苦しみの中に埋没していた。
「……強情だね。それじゃ、今日はそのまま寝るといい」
それだけ言って、私は彼を放置したまま部屋を後にした。
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