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「ご飯だよ」
私は今日も、少年のために毒を盛った食事を運ぶ。
「きみは、すごいね」
これは心の底から、素直に出た言葉だった。
本当に、驚いているんだ。
「あれから毎日、少しずつ毒を増やしてきたけれど、きみは死なない。それどころか、どんどん毒に強くなってゆく」
私が差し出した食事を、彼は両手で受け取った。
今日も、すぐには食べないのだろう。
私が部屋を出て一人になってからでないと、この子は食事を摂らない。
それまでは、いつもテーブルの下に身を潜めて、私が去るのを待っている。
けれど、
物音を立てれば目を向けたり、喋りかけてやれば黙って私の口が動くのを見ていたりと、
僅かではあるが、私という存在を受け入れ始めているような気がしていた。
「きみのことを教皇さまに伝えたら、『もっと鍛えてやれ』と言っていたよ」
私が不規則なタイミングで『毒消しも仕込んだ食事』を運ぶものだから、
与えられた食事を何でも完食するようになった少年の身体には、
以前よりも栄養が行き渡っているように見える。
「教皇さまのお言いつけ通り、今日からはトレーニングをしようね」
彼に筋力をつけるために、私は幾つかの器具を持ってきていた。
そうだな、まずは腹筋背筋。
あとは腕の筋力と、綺麗な指先をしているから、握力を重視してみようか。
走ったり飛んだりするのは、部屋から出せるようになってからで良いだろう。
「きみに対して、『やらないと殺す』という脅しが効かないことは解ってる」
私はテーブルの上にガシャガシャとわざとらしい音を立てて器具を起き、
それから少年のいる場所を覗き込む。
「出ておいで」
彼はじっとこちらを見ているが、やはり返答は無い。
引き摺り出されることを警戒してか、こちらを睨みつけたまま、後ずさりして逃げてしまった。
その瞳が、とても綺麗だったからかな。
「……出てこないなら、私が入る」
ああ、私にだって、どうしてかは良く解らないのだけど。
私はその時、
彼の領域に踏み込んで、
その身体を包み込むように、強く抱きしめていたのだ。
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