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その声はレイラの耳に届いていた。だが、レイラの頭の中には、痩せていく幼い子供たちの可哀想な姿しかなったのだ。美味しそうに食べる幼い子供たちの笑顔が見たい……。
それだけだった――――
レイラは素早く野兎の首元に噛みつき、獲物を捕まえた喜びに心が躍った瞬間、レイラの体重で一気に足場が崩れたのだ。
ジュダと子供達の目の前からレイラの姿が消え、数秒後、地面に体が叩きつけられるけたたましい音が響いた。
ジュダが叫んだ。
「レイラーー!」
子供達も信じられない光景に戦慄の渦に巻き込まれた。
「母さーん!」
ジュダと子供達はレイラが落下した崖へと駆け寄り、恐る恐るその下を覗き見る。六メートル下の岩場に頭を強打し、大量の血を流したレイラの姿があった。
ジュダはレイラに必死で呼びかける。
「レイラーー!返事をしてくれ!」
そんな!
そんな!
レイラが死ぬはずがない!
リランは涙を流して、ジュダに言った。
「父さん……。母さんから生きてる匂いがしない。血の匂いしかしないんだ」
ノントも嗚咽をかきながら、愛する母レイラが命を懸けて捕らえた最後の獲物を見つめた。
「これ……幼い兄妹達に食べさせないと。母さんの最後の……最後の愛情だから。お、おいら……おいら、母さん……嫌だよ、母さん、ねえ……返事してよ」
風に揺れる梢も悲しみを湛え、泣いているようだった。すすり泣く声が静寂な森林に、憂いの風を吹かせた。ジュダは涙に濡れた双眸で愛する妻に問い掛ける最後の遠吠えをした。だが、生と死を司る神に哀訴の声が届くことはなく、鼻を掠める匂いは、リランの言う通り生きた匂いがしない赤い死の匂いだった。
「父さん、今日は幼い兄弟たちが待つウチに帰ろう」リランは、レイラが仕留めた野兎を口にくわえた。
ジュダはその場から動こうとしなかった。
誰もいない断崖絶壁の崖の下、たった一人ぼっちで……。可哀想だ。
「リラン、俺はもう少しここに居たい」
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