アニマルファンタジー【短編】

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 リランは口にくわえた野兎を大地に置いた。「幼い兄妹たちが待っている。母さんが望んでいるのは、父さんが落ち込むことじゃないはずです。母さんは大地に帰ったんだ。きっとここには綺麗な花が咲くよ。父さんが蝶々になるって言うのなら……いつか真っ白な蝶々に身を変えて地上に舞い降りてくるはず。母さんは……」声を詰まらせた。「俺だって悲しいんだよ。父さんがしっかりしてくれなきゃ……幼い兄妹達は誰を頼ればいい?父さん、あなたしかいないんです」  「リラン……」自分が知らぬ間に大人へと成長したリランを見つめポツリと呟く。「お前は気丈な奴だな……俺なんかよりずっと」  愛する妻を失ったジュダは悲しみの滴を流し、群れを率いて幼い子供達が待つ家路へと引き返した。  走りながら思うことは母親の死をどうやって幼い子供達に伝えよう。死を理解するには幼く、母親を失うには幼すぎる……。  しかし、それ以上に後悔の念が、頭の中でぐるぐると廻り続けた。  狩りに出がける前、苛立っていたとはいえ酷い事を言ってしまった。後悔してもしきれない。心にも思っていない暴言を吐いた俺が代わりに死ねばよかったんだ!なぜレイラが!  愛していると、もう一度伝えられたなら……。  どうして……大切なものは失ってからじゃないと気付くことができないのか……。  俺は愚かだ……。  なあ……レイラ。  もう一度お前に伝えたい。  愛しているんだ――――  俺は一体どうしたいい?この先、君なしでどう生きて行けば……。 □□□  狩りに出かけた群れが、幼い子供達が待つ場所に着いたのは夜明けだった。成体の子供二匹と幼い子供達が、首を長くして彼らの帰りを待っていた。  幼い子供達を守っていた成体の妹が異変に気付き、ジュダに尋ねた。  「ねえ、母さんは?」  ジュダは一瞬重い口を開いだが、すぐに閉ざし、話を逸らした。レイラの死は、体力がない幼い子供達が食事を取ってからにしようとした。なぜなら、ショックが大きすぎて食事を口にできないかもしれないと考えたからだ。それでは命を懸けたレイラの愛情が無意味になってしまう。  「か、母さんは……。後でゆっくりと話す。今はこの子たちに野兎を食べさせてやってくれ」  「わかったわ」
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