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シルバーは初めて父親の涙を見た。いつも強くて、自分たちを守ってくれている父親の涙は、シルバーにとって見るに耐え難いものだった。
お母さんは死んでないんだよ。きっと助けを待っているんだ。僕がお母さんを助けに行くから泣かないで。
僕がお母さんを連れて帰ってきたら、もう一度、お母さんに愛してるって言ってあげてね。
お母さんもお父さんを愛しているんだから。愛があったから、僕たちが生まれたんだ。
「お父さん、もう泣かなくていいんだよ。僕がもう一度、お母さんに逢わせてあげる」
「シルバー……。母さんはね、死んじゃったんだよ。でも、ありがとう。その気持ちだけで十分だ。父さんは嬉しい」
この時、ジュダはシルバーの言っている意味を深く理解してはいなかった。自分を慰めるために一生懸命で健気な我が子に感謝し、頬を優しく舐めてあげた。
□□□
泣き疲れた子供達が瞼を閉じ、眠りについた午後。ジュダはレイラを思い出し、眠りにつくことができなかったので、今朝と同様に思い出の木々の中へと入っていった。
寝たふりをしていたシルバーは目を開け、全員が眠っていることを確認すると、足音を立てず、静かに群れを離れた。
シルバーは後ろを振り返り家族を見つめ、小声で言った。
「必ずお母さんを助けてみせる。そして、ここに連れ戻してみせるよ。明日の朝までには戻ってくるから心配しないでね」
だって、お父さんの涙も、みんなの悲しむ顔も見たくないから。
それに、僕、お母さんに逢いたいんだ!
シルバーはレイラが転落した崖の方角ではなく、反対方向の左方へと走っていった。
匂いをたどれば方角が分かりそうだが、狩りも追跡もしたことがない幼いシルバーは縄張り内の匂いを頼りに、レイラを探し出そうとしていたのだ。
シルバーが走り続けて四時間が経過した頃、空と太陽は灰色の雲に覆われ、ぽつぽつと雨が降りだした。
シルバーは雨にも負けず必死にレイラを捜すが、時間が経つにつれ雨脚が強くなってきたので、辺りを見回した。
今しがた明るかったはずの森林は太陽の光が遮られ、一気に暗くなり始めた。幼いシルバーは独りでいるのが怖くなり、群れに引き返そうとした。
周囲に生い茂る木々の梢が雨風に揺れ、まるで魔物の手のように思え、慌てて大地の匂いを嗅ぐ。だが、いくら大地を嗅いでも、自分が歩いてきた匂いが分からない。
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