アニマルファンタジー【短編】

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 すると遥か彼方上空に一本(ひともと)の大きな鷹が飛んでいた。  僕も空が飛べたら簡単にお母さんを見つけ出し、家族の許に帰れるのにと思いながら、羨ましそうに鷹を眺めていたその時、鷹は上空で双翼を縮め、弾丸の如く地上に落下していった。  そして、丘の下で飛び跳ねていた野兎の子供に、鋭い爪を食い込ませた。短い人生に終わりを告げた野兎の子供が細い悲鳴を上げると、鷹は前足でしっかりと野兎の子供を捕らえ、再び上空へと上昇する。  シルバーは余りにも剽悍な鷹の狩りの腕前に慄然とし、昨日通った鬱蒼たる木々の中に踵を返し、身震いしながら木陰に身を潜め、両親に畏敬の念を感じた。  よくぞこの厳しい大自然を生き抜き、自分を産んで育ててくれたと――――  シルバーは暫く木陰に隠れていた。曙光が天高く昇り、燦然とした太陽がオンタリオ州の森林を照らし始めると、一頭の美しい白い蝶が樹冠(じゅりん)の下に差し込む光彩を縫うように、こちらに向かって羽を羽ばたかせているのが見えた。  その蝶は、独りで怯えているシルバーの鼻先へと留まる。よく見ると右目が琥珀色で、左目が瑠璃色だった。珍しいオッドアイの蝶は優しい匂いがした。  シルバーは狼のご先祖様の魂は蝶になるという話を思い出して、蝶に話しかける。  「蝶々さん、白い体にオッドアイだね。お母さんみたいだ。僕もオッドアイだから一緒だね」  蝶はシルバーの周りを飛んでから、黄色い花の上に静止した。  つぶらな双眸に涙を溜めて蝶にお願いするシルバー。  「蝶々さん、僕、独りぼっちで寂しいんだ。一緒にいてくれる?お母さんを捜すまででいいから」  蝶はひらひらと羽を広げ、シルバーの頭に留まった。  「一緒に居てくれるの?ありがとう、蝶々さん!」  心強く感じたシルバーは、レイラを捜し、群れに戻る為、歩を進め始めた。蝶はシルバーの歩調に合わせ、ゆっくりと飛ぶ。  「お腹空いたな。きっとお母さんもお腹を空かせているよね。我慢しなきゃ。お父さんたちはちゃんとごはん食べれたかなぁ。心配だよ。蝶々さんはお腹空かないの?」  シルバーは蝶に話し掛け、木々の中を歩いた。そして、気がつけば歩き続けて三日目。蝶に話し掛ける台詞はいつも“お腹が空いた”。最後に食べたのはレイラが捕らえた小さな野兎だ。それも幼い兄妹で分けて食べたのだから、眩暈がするほど空腹で当然だった。
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