アニマルファンタジー【短編】

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 「厳しい自然で生きているんだ。死は付き物。大切なのは死を受け入れること。そして、群れを守り、誇り高く生き抜くことだと俺は思う」  「リラン、君は強いね。おいらは未だに母さんが恋しいよ」 □□□  シルバーは木々に覆われた森林をとぼとぼと彷徨っていたのだが、鬱蒼とした木々を抜けた瞬間、突如周囲の匂いが変ったのだ。他の狼の匂い。違う狼の群れの縄張りに入ってしまったようだ。シルバーと一緒に居る蝶は注意を促すように、羽を激しく動かし始めた。  シルバーは鼻先を動かし、匂いを嗅ぐと、馨しい鹿肉の匂いを感じた。たぶん狩りに成功し、今から食事を取ろうとしているところだろう。  「僕も食べたいよ」蝶は行くなと言わんばかりに、シルバーの目の前で羽を動かす。「どいてよ」前肢で蝶を振り払う。  狼たちは自分たちの縄張りに入ってきた部外者(自分の群れ以外の狼)は追い払われるか、しつこければ殺されることもあるのだ。シルバーがとろうとしていた行動は非常に危険な行為だった。しかし、死にそうなくらいに空腹のシルバーは、徐々に危険に近寄っていく。それに、幼さ故、群れの仕組みや上下関係がよく分かっていなかった。  シルバーは蝶を無視して、他所の縄張りの中へと足を踏み入れた。すると、十三匹の狼たちが鹿肉を囲んで、美味しそうに食べている最中だった。  群れの中にはシルバーと同い年くらいの子供の狼も四匹いた。鹿肉を恍惚とした表情で口いっぱいに頬張る姿が羨ましく思えたシルバーは、群れに歩み寄る。しかし、群れのアルファ雄がシルバーを威嚇した。  「小僧、今すぐ縄張りから出て行け!」  シルバーは目を潤ませ、お願いする。  「一口だけでいいんです。僕、お腹が空いてて。おうちの場所もわからなくなってしまって」  「貴様にやるくらいなら我が子供達に与える!さっさと出て行け!」  「お願いします。少しでいいから……。一口でいいから」  アルファ雄はシルバーの首の後ろに噛みついた。  「痛い!」  「血が出るまで強く噛んではいない!ただし、しつこく此処にいるなら噛み殺す!血を流さぬ前に出て行け!」捲し立てた後、静思して小さな声で囁くように言った。「幼き一匹狼よ……。何故、群れから逸れた……」
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