アニマルファンタジー【短編】

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 シルバーはしょんぼりと耳を下げて縄張りから出ていった。空腹と寂しさが一気に込み上げ、双眸から大粒の涙をぽろぽろと流し、大声で両親を呼んだ。  「お母さん!お母さーん!お父さん、お母さんが見つからないよぉ。お母さん」  白い蝶は慰めるようにシルバーの鼻に留まり、オッドアイから涙を流した。  「蝶々さん、泣いてるの?蝶々さんもお腹が空いたの?僕……お母さんに逢いたいんだ。お父さんがね、お母さんに愛してるって伝えたいって泣いていたんだ。だから、僕……」  蝶は何度もシルバーの頬を羽で撫でた。蝶は何か言いたそうだった。しかし、言葉を言わぬ蝶が何を言いたいのかシルバーには解らなかった。だから一言だけ蝶に言う。  「ごめんね蝶々さん。蝶々さんが何を言いたいのか僕には解らないんだよ」  蝶は滂沱(ぼうだ)の涙を流しながら、シルバーの頬を撫で続けた。  シルバーは泣き止むことなく、叢(くさむら)の上に蹲った。暖かな日中の太陽に照らされるシルバー。  「蝶々さん、眠たいから少し寝るね。どこにも行かないでね。蝶々さんが居ないと僕寂しいから」  蝶は草に留まり、愛おしそうにシルバーを見つめている。シルバーはうとうとし始め、蝶が見守る中、眠りについた。  シルバーは寝言を言う。  「お母さん……」  そして、前肢を動かし、口をパクパクと動かして舌を鳴らした。動物は夢を見るという。きっと、赤ちゃんに戻ってレイラのおっぱいを吸っている夢でも見ているのだろう。  シルバーは暫く眠った後、目を覚ました。体を伸ばして、蝶に話し掛ける。  「蝶々さん、歩こう」  蝶はシルバーの前を飛び、上空に上がった。蝶は渺茫な森林を望む。そして、再びシルバーの前を飛び始めた。蝶はシルバーを群れに帰してあげたいようだ。しかし、随分と方向も違う。それに、かなりの距離だ。近道を探そうとするが蝶にも此処がどの位置なのかよく解らず、困っている様子だった。  「蝶々さん、ありがとう。歩けば、きっとお母さんに逢えるはずだよ。お父さんのところにお母さんを連れて帰るんだ」  シルバーは蝶と一緒に叢を歩く。色とりどりの綺麗な小花が咲いている道は、シルバーの落ち込んだ心を少し明るくしてくれた。辺りは生い茂る木々に囲まれているが、シルバーが歩いている叢は日当たりが良好だ。
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