アニマルファンタジー【短編】

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 その時、ふと鹿と鳥の匂いを感じ取った。先程の狼の群れが食べていた新鮮な鹿肉の匂いとは違うと思ったが、腐った匂いでもない。特に鳥は美味しそうな匂いだった。  シルバーは鼻先をくんくんと動かして匂いを嗅ぐ。匂いを発している場所は、もう少し先のようだ。耳を澄ますと、川のせせらぎが聞こえた。  周囲に首を巡らせ、目を凝らして前方を見てみると、道が途切れていた。きっと途切れた道の下には、川が流れているのだろう。  蝶は方向転換しようとシルバーを誘導する。しかし、どうしても美味しそうな鶏肉の匂いが気になってしまうシルバー。  神経を集中させると、匂いは途切れた道の手前ということが分かったので、歩を進めてみることにした。蝶は心配そうにシルバーを見つめている。  「大丈夫だよ。敵の匂いもしないし。でもね、鹿の匂いがなんか変なんだ。嗅いだ事のない匂いがするんだよ。死んでるような?」少し間をおいて考えた。「蝶々さんって鼻あるの?鼻がついてなかったら匂いは分からないよね。僕はね、鼻がいいんだよ。蝶々さんは僕のご先祖様だから、昔は鼻がよかったんだよね」   シルバーは叢の上に不自然に置かれた鶏肉を見た。羽も生えていなければ、骨すらない。  ピンク色で柔らかそうな鶏肉は、空腹のシルバーを引き寄せた。  「うわー!美味しそう!」  蝶は行くなと言わんばかりに、シルバーの周囲を飛ぶ。  「大丈夫だよ。きっと森林の神様が僕にくれたんだ」  やっとありつけた食事、しかもおいしそうな鶏肉だ。心を弾ませ、鶏肉まで跳んだ瞬間、左後肢に今まで感じたことのない激痛が走り、シルバーは悲鳴を上げた。  蝶は慌てふためき、シルバーの左後肢で羽をばたつかせるように飛んだ。痛みに蝕まれ震えが止まらないシルバーは、自分の左後肢に目をやると、獲物を捕らえる為に仕掛けられたトリバサミが、細い左後肢を捕らえ、骨まで砕いていたのだ。叢の緑が血に染まってゆく。  シルバーは泣きじゃくり、助けを求めた。  「痛いよぉ!痛いよぉ!助けてーー!お母さん!どこにいるの?お父さん!お母さーん!」  僕が転んで怪我をしたとき、お母さんは優しく癒してくれた。お父さんも心配してくれた。でも、今、僕と一緒に居てくれるのは、蝶々さんだけ。  「お母さん!助けて、お父さん!」
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