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蝶はしっかりとシルバーに寄り添い、トリバサミに挟まれ潰れてしまった小さな足を、白い羽で撫でてていた。真っ白だった羽が赤くなってゆく。
泣き喚くシルバーの後方の木々から、鹿の毛皮を身に纏い、猟銃を携えた男が二人現れた。この時期は狩りが解禁される時期でもなく、狩りが許可された森林でもない。つまり、密猟者。
男が言った。
「くっそ!チビかよ!だからスーパーの鶏肉じゃ駄目だって言ったんだ。大人は警戒心が強いから、お前のウチで飼ってる鶏にすればよかったんだよ」
もう一人の男が猟銃を構え、銃口をシルバーに向けた。
「まぁ、しゃあねえ。チビの毛は柔らかいし、こいつの毛は銀色だ。意外といい値で売れるかもしれんぞ」
シルバーは銃口に火薬のにおいを感じた。そして、嫌な血の匂いも。
殺される!
シルバーは蝶を見つめた。
「蝶々さん、僕を守って。僕はお母さんを捜さなきゃいけないんだ。そして、お父さんのところに帰るんだ」
シルバーは渾身の力を籠め、トリバサミに挟まれた後肢を引き千切ったのだ。トリバサミの中に千切れた小さな足が転がり、愛らしかった肉球が痛々しさを物語る。
シルバーは痛みを堪え、前方の道が途切れた場所へと向かった。人間から逃げるには川に飛び込むしかないと思ったからだ。痛みに苛まれる中、苦渋の選択だったが、これ以上の方法が見つからなかった。生きる為に覚悟の決断をしたのだ。
必死で逃げるシルバーを守りたい蝶は、猟銃を構えた男に襲い掛かった。何とか視界を遮ろうと、羽を大きく広げ、目を攻撃する。
猟銃を持った男は蝶を振り払う。
「邪魔くさい蝶だな」
もう一人の男が蝶の目を見た。
「面白い蝶だぜ。オッドアイだ」
「そんなものどうでもいい。逃げられちまうだろ!?撃てよ!」
「あいよ」
シルバーは途切れた道の下を覗いた。思っていた以上に高く、レイラが転落した崖に匹敵する高さだった。川の流れも速い。怖気づき、躊躇した、その時。
穏やかな森林と青空に銃声が響いた。木々で翼を休めていた鳥たちが、空へと逃げていく。
そして、恐れていた銃弾がシルバーの胸を貫通した。
飛び込もうと思っていた川に落下する形で落ちていくシルバーの許に、蝶が急いで羽を向けた。
猟銃を放った男が言う。
「あーあ、川に落ちてしまった。残念だ」
「お前が蝶なんかに気を取られているからだろ?」
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