13人が本棚に入れています
本棚に追加
「仕方ないだろ?次にデカいのを捕まえりゃあ文句ねえだろうよ。そうだ、餌にチビの足使おうぜ」
□□□
猟銃で胸を撃たれたシルバーは朦朧とする意識の中、何とか前肢を動かし泳ごうと、必死に生きようとする。だが出血の量が多く、逆巻く流れは赤に染まっていく。予想以上に水位が深く、見た目より流れも速い。流されていくシルバーを懸命に追いかける蝶。
蝶は涙を零した。
もし、私の羽がもっと大きければ、シルバーを川から救い出せるのに――――
もし、この小さな口が生前のように大きければ、人間からシルバーを守れたのに――――
シルバーは最後の力を振り絞り、なんとか岸辺ににじり上がることができた。しかし、すでに体力に限外を超えていたシルバーは動くことができず、石の上に横たわり、微かに息をしている状態だった。たとえ体が動いたとしても、峻険な崖に穿(うが)たれた川だ。登ることは不可能だろう。
焦点すら合わない双眸に、涙を流す蝶を映して話し掛けた。
「蝶々さん、お父さんに伝えて。お母さんをもう一度お父さんに逢わせたかった。僕ね……僕もね……お母さんに逢いたかったんだ……」
蝶はシルバーの鼻に留まった。
「お母さん……」
シルバーはゆっくりと瞼を閉じた――――
□□□
深い眠りについたシルバーは、自分を呼ぶ声で目が覚めた。
そこは冷たい川ではなく、沢山の花が咲き誇る花畑だった。
シルバーが花畑に首を巡らせると、いつも一緒にいてくれたオッドアイの白い蝶がこちらに向かって飛んできた。そして、花畑に舞い降り、眩(まばゆ)い光を発しながらレイラの姿に身を変えたのだ。
「シルバー」
シルバーは泣きながら愛しい母レイラに縋(すが)り付いた。
「お、お母さん!お母さん!僕、ずっと捜していたんだよ」
レイラはぽろぽろと涙を流し、シルバーの口元を舐め、体を摺り寄せる。
「ごめんねシルバー。大好きよ」
「お母さん。僕も大好きだよ。お父さんにもう一度逢わせてあげたかったんだ」
「優しい子ね。お父さんが言いたいことは分かってるわ。お母さんもお父さんが大好きよ」
「お母さん」
「さあ、行きましょう」
「僕ね歩きたくても、足がとれちゃったんだよ。胸も痛いの」
レイラは優しく微笑んだ。
「見てごらんなさい。足も胸も痛くないはずよ」
最初のコメントを投稿しよう!