アニマルファンタジー【短編】

3/21
前へ
/23ページ
次へ
 春を迎えれば、群れから出ていく子供たちもいるだろう。独りで生きて行くというのは想像以上に厳しいものだ。あいつらにできるのだろうか……。  親として教えるべき事は全て教えたつもりだ。  しかし、大地に降りしきる雪のように心配事は募る一方。  きっと、自分の両親も同じ思いをしていたのだろう。引き留めてはならない。一生の伴侶を求め放浪の旅(ディスパーザル)にゆくのだから。  辛いものだな……。  ジュダが親となり、子を育てて、もうすぐ二年が経過しようとしていた。厳格な優劣順位があろうとも、可愛い我が子。自分の群れから出て行くであろう子供たちを見つめ、慮(おもんぱか)る毎日。子を送り出すのは初めての経験だ。心配しても仕方がないことだが、どうしても考えてしまう。  重苦しい溜め息をついた時、後方から足音が聞こえた。ジュダは振り向かなくても誰なのか直ぐに分かった。  愛する我妻の愛しい足音。そして愛しい匂い――――  ジュダの妻であるレイラは白い毛を靡かせ、ジュダに歩み寄る。レイラは珍しいオッドアイだ。右目が琥珀色で、左目は瑠璃色の美しい狼。  レイラは笑みを浮かべてジュダに話しかける。  「なに黄昏(たそがれ)てるの?」  ジュダは振り返ってレイラの顔を見る。  「子供たちの事を考えていたんだ」  艶っぽい仕草でジュダに体を摺り寄せた。  「私の事も考えてくれてるのかしら?」  「いつも考えてる」  そう……いつも考えてる。  君以上に美しい狼はいない。  初めて君を見たとき、余りの美しさに驚いた事を未だに忘れられないよ。  レイラに一目惚れをして、やっとの思いで妻にしたジュダは、懐かしいあの頃に想念を巡らせ、レイラの頬に自分の頬を押し当てた。  「ジュダ、愛してるわ」  「俺も愛してる」  「ねえ、子供が欲しいのよ。暖かな春に可愛い赤ちゃんを沢山産みたいわ」  「ああ、俺も子供が欲しい」レイラにキスをした。「なにより今は君が欲しい」  ジュダとレイラは生い茂る木々の中へと入っていった。  美しい満月の今宵、深く愛し合い、レイラは待望の赤ちゃんを授かった。 □□□  極寒の地の雪が解け、花々が繚乱(りょうらん)とし、緑の息吹が大地を覆う季節が訪れた。暖かな春の木漏れ日が優しく群れを包み込むと、狼たちは気持ち良さそうに野原に寝転んだ。
/23ページ

最初のコメントを投稿しよう!

13人が本棚に入れています
本棚に追加