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春を迎えれば、群れから出ていく子供たちもいるだろう。独りで生きて行くというのは想像以上に厳しいものだ。あいつらにできるのだろうか……。
親として教えるべき事は全て教えたつもりだ。
しかし、大地に降りしきる雪のように心配事は募る一方。
きっと、自分の両親も同じ思いをしていたのだろう。引き留めてはならない。一生の伴侶を求め放浪の旅(ディスパーザル)にゆくのだから。
辛いものだな……。
ジュダが親となり、子を育てて、もうすぐ二年が経過しようとしていた。厳格な優劣順位があろうとも、可愛い我が子。自分の群れから出て行くであろう子供たちを見つめ、慮(おもんぱか)る毎日。子を送り出すのは初めての経験だ。心配しても仕方がないことだが、どうしても考えてしまう。
重苦しい溜め息をついた時、後方から足音が聞こえた。ジュダは振り向かなくても誰なのか直ぐに分かった。
愛する我妻の愛しい足音。そして愛しい匂い――――
ジュダの妻であるレイラは白い毛を靡かせ、ジュダに歩み寄る。レイラは珍しいオッドアイだ。右目が琥珀色で、左目は瑠璃色の美しい狼。
レイラは笑みを浮かべてジュダに話しかける。
「なに黄昏(たそがれ)てるの?」
ジュダは振り返ってレイラの顔を見る。
「子供たちの事を考えていたんだ」
艶っぽい仕草でジュダに体を摺り寄せた。
「私の事も考えてくれてるのかしら?」
「いつも考えてる」
そう……いつも考えてる。
君以上に美しい狼はいない。
初めて君を見たとき、余りの美しさに驚いた事を未だに忘れられないよ。
レイラに一目惚れをして、やっとの思いで妻にしたジュダは、懐かしいあの頃に想念を巡らせ、レイラの頬に自分の頬を押し当てた。
「ジュダ、愛してるわ」
「俺も愛してる」
「ねえ、子供が欲しいのよ。暖かな春に可愛い赤ちゃんを沢山産みたいわ」
「ああ、俺も子供が欲しい」レイラにキスをした。「なにより今は君が欲しい」
ジュダとレイラは生い茂る木々の中へと入っていった。
美しい満月の今宵、深く愛し合い、レイラは待望の赤ちゃんを授かった。
□□□
極寒の地の雪が解け、花々が繚乱(りょうらん)とし、緑の息吹が大地を覆う季節が訪れた。暖かな春の木漏れ日が優しく群れを包み込むと、狼たちは気持ち良さそうに野原に寝転んだ。
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