第1章

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「あれ、七海はもうそのこと知ってるの?」  毒気を抜かれたような顔で自称小説家が訊ねると、自称怪談収集家は満足げに「当然」とうなずいた。腕を組み、したり顔で彼女は説明を始める。 「都市伝説の一種だよ。白髪の少女。赤眼なんて噂もあるけど、どうだろうね。私が見た時は違っていたから。少女を見た場所には雷が落ちる。凶兆とも呼ばれている存在。何でも願いをかなえる神とも悪魔とも噂されてたりするね。この間、偶然会う機会があったんだ」  目を丸くして聞き入る友人一同の中、楠木は一人だけ悪い予感を抱いていた。  初めて会った時の少女の言葉がよみがえる。 「何をやめてほしいの?」  自称怪談収集家は、頬を染めてピースまでしてみせた。 「『何をやめてほしいの?』って聞かれたから、『楠木乃輝が平凡な生活を送るのを止めてほしい』って言っちゃったよねー!」  拍手喝采を受け、口笛まで吹かれる自称怪談収集家。ぽかんと口をあけていた楠木は、危うく雰囲気に流されかけて踏みとどまった。 「いや、ひゅーひゅーとかじゃなくて! お前か! お前のせいで僕はあんな奴と会ったのか!」 「いやぁ、願いをかなえてくれるってのは半信半疑だったからさ? ちょっと検証してみなきゃと思っちゃってさぁ。いやいや本当だったんだね! 協力ありがとう、乃輝!」  怒る気力も萎えてくる。例え怒ったところで、この友人たちには意味がない。  彼らのこの性質が変わらないことはもうわかっているのだから。  脱力した楠木の頭がぽんぽんと叩かれる。 「ほんっと、乃輝が友達で良かったよー」  そこにどういう意味が含まれているかは知らないが、楠木は弱々しく片手をあげた。 「そりゃ、どーも。僕はお前たちが友達で疲れたよ」  けらけらと友人たちの笑う声に囲まれて、楠木は伏せたまま小さく微笑んだ。
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