0人が本棚に入れています
本棚に追加
「あれ、七海はもうそのこと知ってるの?」
毒気を抜かれたような顔で自称小説家が訊ねると、自称怪談収集家は満足げに「当然」とうなずいた。腕を組み、したり顔で彼女は説明を始める。
「都市伝説の一種だよ。白髪の少女。赤眼なんて噂もあるけど、どうだろうね。私が見た時は違っていたから。少女を見た場所には雷が落ちる。凶兆とも呼ばれている存在。何でも願いをかなえる神とも悪魔とも噂されてたりするね。この間、偶然会う機会があったんだ」
目を丸くして聞き入る友人一同の中、楠木は一人だけ悪い予感を抱いていた。
初めて会った時の少女の言葉がよみがえる。
「何をやめてほしいの?」
自称怪談収集家は、頬を染めてピースまでしてみせた。
「『何をやめてほしいの?』って聞かれたから、『楠木乃輝が平凡な生活を送るのを止めてほしい』って言っちゃったよねー!」
拍手喝采を受け、口笛まで吹かれる自称怪談収集家。ぽかんと口をあけていた楠木は、危うく雰囲気に流されかけて踏みとどまった。
「いや、ひゅーひゅーとかじゃなくて! お前か! お前のせいで僕はあんな奴と会ったのか!」
「いやぁ、願いをかなえてくれるってのは半信半疑だったからさ? ちょっと検証してみなきゃと思っちゃってさぁ。いやいや本当だったんだね! 協力ありがとう、乃輝!」
怒る気力も萎えてくる。例え怒ったところで、この友人たちには意味がない。
彼らのこの性質が変わらないことはもうわかっているのだから。
脱力した楠木の頭がぽんぽんと叩かれる。
「ほんっと、乃輝が友達で良かったよー」
そこにどういう意味が含まれているかは知らないが、楠木は弱々しく片手をあげた。
「そりゃ、どーも。僕はお前たちが友達で疲れたよ」
けらけらと友人たちの笑う声に囲まれて、楠木は伏せたまま小さく微笑んだ。
最初のコメントを投稿しよう!