第1章

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 親につけられたこの名前は、散々ペンネームだろうとからかわれた。今ではもう慣れたものの、問題はもう一つある。  楠木乃輝は「生み出す者」ではない。しかし、その周囲にいる者ならば話は別だ。  作曲家、作詞家、小説家、画家、唄をたしなむ者もいれば活け花から建築に携わる者まで、楠木乃輝の友人の種類は多岐に渡っている。  しかも、そのすべてが「自称」であるというのだから、楠木にとっては頭が痛い。友人たちがそんな人間ばかりだから、楠木自身も周囲から同類と見なされてしまうのだ。 「楠木くんは、何を創るの?」  そんな質問をされたことも、十回、二十回ではくだらない。問うた少女に楠木は満面の笑みをもって返す。 「僕は何も作らないよ。僕は」  強調して付け加えた言葉と、笑みの裏からあふれ出るどす黒いいらだちに少女は怯える。 「ふ、ふうん……? そっかぁ、ご、ごめんね!」  顔をひきつらせて笑いながらも謝り、身の安全が保障されない小動物の如く逃げ出していったその姿。見送りながら笑顔で手を振り、舌打ちしたのは少女に向けてではなく、友人たちに対して。 「僕を巻き込むなって言ってんのに……!」  それからため息をつき、がっくりと肩を落として帰るのだ。 「僕はただの普通の人間だって言ってるのにさぁ。あいつらのせいで僕までそうだと勘違いされるじゃないか。本当にやめてほしい。ほんっとーにやめてほしい!」 「何をやめてほしいの?」  帰り道、いつもと同じつぶやきに、いつもはない声が反応した。
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