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「わたし、3組の予選をずっと見てた。五王(ごおう)くんに聞いたんだ。すごい見物があるから、授業をさぼってきてごらんって。ほら、古文の谷田ってうちの派閥の先生だから、わたしが気分が悪いというと、すぐに授業を抜けさせてくれるんだよね」
進駐官養成高校の広大なグラウンドでは、ラグビー部とサッカー部と野球部が声を張りあげて練習していた。のどかな風景のはずなのにタツオの心は冷え切っていた。
(つぎはおまえだ)
カザンの無言の宣戦布告が頭の中を離れない。サイコが不思議そうな顔をしていった。
「……タツオ? 聞いてる?」
夢から覚めたようにタツオは学校一の美少女に目をやった。髪は黒い水でも流したようにまっすぐ繊細な輪郭の顔立ちを包んでいる。なぜ女子の髪には蝶の羽のような艶(つや)と輝きがあるのだろう。タツオは自分の頭に手をやった。同じ黒髪でも、こちらは汗をかいたせいでばさばさだ。
「ああ、聞いてるよ」
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