90(続き)

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「タツオの試合すごかったね。あんなにおおきな相手を倒すなんて。わたし、負けるだけじゃなくて、タツオが怪我(けが)をするんじゃないかって、気が気じゃなかった。秘伝もつかってなかったみたいだし」  タツオはサイコの前で「止水(しすい)」を発動したことはなかった。 「でも、さすがだと思ったよ。昔のタツオを見ているみたいだった。ほら、覚えてる? 小学校4年生のとき、うちの道場で」  タツオは即座に思いだした。中学生を含む先輩たちに生意気だと難癖(なんくせ)をつけられ、カザンとともに呼びだされたのだ。近衛(このえ)四家の子どもたちへの特別な計(はか)らいを、依怙贔屓(えこひいき)だといって年長の少年たちは腹を立てていた。先輩はみなこちらよりも身体(からだ)がおおきく、格闘技の経験者だった。力尽きてギブアップするまで徹底して続けられる2人対6人の変則的なリンチまがいの稽古(けいこ)だった。 「あのときうちのお兄ちゃんは、ひとり倒してふたり目でやられちゃった。悔し泣きしてたのを覚えてるよ」
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