冬山での遭遇

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東と西で共同開催だとかいう祭りの最終日。休戦中ということもあって新しく拷問にかける必要がある者もないこともあり、普段は私にまで回ってくることのない害獣退治のため、私は珍しく雪山の中に入っとった。 今回の標的は猪。この汚染された地を少しずつ元通りに戻しつつあるというのに、そこを荒らしまわる野生の生き物たちが最近増えてきたというのだ。少しくらいならば自然の摂理と諦めるのだが、その被害の範囲や状況があまりにも酷いから数を減らそうことになり、暇そうにしとった私にまで白羽の矢が立つこととなってしまった。 あらかじめ仕掛けられた罠に追い込み、見事に大物を仕留めることに成功したところまではよかった、けれど、それを鮮度を保ったまま運ぼうと異能を使ったのが間違いだった。うっすらと雪の積もった山の中で異能を使いすぎたせいで動けなくなり、仕方なく仕留めた猪の上に座って焚火に当たっていると、突然空から叫び声とともに何かが降ってきた。 まるで猫のように空中で体勢を整えたソレは、溶け残った雪があちらこちらに残る黒く硬い地面に両足で踏みしめるように着地した。目の前に現れた見慣れないモノに驚き、思わず近くの木に立てかけていた棒を手に取って構えると、私の存在に気が付いてないであろうソレは 「いってぇぇぇ!!!」 と叫んで両足をさすると、狐のように細い赤い目をさらに細めて上空を見つめていた。それにつられて私も空を見上げるけれど、木々に邪魔されてあまり空は見えない。でも、そこには空飛ぶ鳥の姿すらなかった。 何を見ていたのだろうと思いながら視線を戻すと、ようやく私がいることに気が付いたソレと目があった。慌てているかのように見えるんやけど、その中にもこの状況を楽しんでいるかのようなそれの表情に疑問を抱きつつも、私はひとまず挨拶してみることにした。 「えっと……こんにちは?」 「……お、おう」 話しかけてはみたけれど、何とも言えない気まずさが残る中、何とか話をしようとかけた次の言葉は「こんなとこやから寒いと思うし、火にでもあたってって?」が精一杯やった。けれど、ソレは渡りに船と言わんばかりに焚火のそばに座ると、暖かそうに手をかざしていた。 その時、ちらりと左ひじに見慣れない紋章が見えた気がしたけれど、あえて気にしないことにした。
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