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「あれ、春澤くん?」
「え、うわぁぁっ!」
駅の中に入るとそこはいくらか涼しかった。寒いくらいだな、と隣の椎原を見ると、そいつはもう隣には居なくて。辺りを見回すと、数メートル先でベンチに座っていた、栗色のふわふわした髪の男子高校生に声をかけていた。
「春澤じゃん! おはよう!」
「あ、藍島ー…おはよ」
突然椎原に絡まれて困っていたその男子も、僕が誘ったうちの1人だった。真夏だというのにブラウンのカーディガンを羽織っている彼は、全体的に控えめな雰囲気を感じさせる。
その男子、春澤英史(はるさわ えいし)が、あまり喋るのは得意ではない事は知っていた。しかし今の椎原とのやりとりを見て、特に女の子には弱いことに気付く。飲みかけのジュースを躊躇なく渡す椎原も椎原だが、春澤は困ったように視線を僕の方に泳がせていた。
彼はこう見えて、学年で1番の成績を修めている。今まで勉強だけしてきた結果他のことが何にもできなくなった、と前に笑いながら僕に自虐してきた事がある。僕からしたら勉強が人以上に出来るということはとても素晴らしいことなのだから、もっと自信を持って欲しいものだ。
「なんで中で待ってたんだ? 外にいたら合流できたのに」
「ごめん、あっつくて、溶けそうだったから…」
そんなに長い時間待って居たのかよ。椎原も、「早く着いたなら電話してくれたらよかったのに」と呆れている。頭がいい奴は、人と少しずれていると聞いたことがある。春澤もそれに該当するのだろうと思った。
3人で適当に場所を取り、道行く人たちを眺める。待ち合わせの時間は過ぎているのに、まだ半分も来ていない。…この僕の目に、狂いはないはずなのだが。一向に現れない3人にメールを飛ばしていると、駅の改札口から一際目を引く小柄な美少女が出てきた。
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