第1章

8/9
前へ
/9ページ
次へ
 しばらく待っただろうか。そろそろ移動しようかというとき、やっと最後の一人が来てくれたようだ。   五反田愛(ごたんだ めぐみ)が、駅前に停まったリムジンから出てくるのが見える。「めぐちゃんだー!」と、二見が嬉しそうに立ち上がった。黒髪ロングストレートに、規定通りのなんの違反もしていない制服を着た、キリッとした顔立ちの五反田愛は、二見とは別の意味で目を引く。  相当な金持ちなのは知っていたが、まさかリムジンに乗って来るとは。主役は遅れて登場すると言うが彼女は確かに主役そのもの。浮世離れしたお嬢様風な雰囲気を感じさせる。  「遅れてすみません。家の者がうるさくて」  キツそうな外見とは裏腹に、物腰が柔らかい五反田はクラスでも学級委員長を務めている。成績ツートップの春澤や椎原とは別の意味での優等生だ。  「ん、いいよ! 五反田が来てくれるとは、思わなかったし!」  「いえいえ。最後の夏休み、何か思い出が出来れば良いなと思いまして。誘ってくれて嬉しいです」  五反田はそう言って、目を伏せた。最後の夏休みと言ったが、彼女は進学はしないつもりなのだろうか。勿体無い。  「全員揃ったのかなぁ? 早くどっか行こ、ここ暑くてもう溶けそうよ」  先程春澤が使った比喩を丸パクリした椎原がリュックからうちわを出して扇いでいる。それを物欲しそうに見ている水無瀬に気付いた椎原は、「…仕方ないなぁ!」と風を送ってあげていた。  「図書館に行くんだよね。わたし、みんなにお菓子持ってきたの」  二見がパステルカラーのリュックから沢山のお菓子を出してみせる。  「なんか、貰ってばっかりだね。僕も二見さんに今度お返ししなきゃ」  「いいのいいの! わたしが、勝手にみんなにあげてるんだから」  申し訳なさそうに言う春澤の頭をぽふぽふ叩く二見を、微笑ましい気持ちで見る。「ふ、二見さんっ??」と突然の頭ぽんにビビる春澤の横で僕は、地図を広げた。  「よし、3分後のバスに乗って図書館行くぞー!」  
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加