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「花ちゃん先生には事情話しましたよね?」
「事細かく背景やらなんやらをいちいち全部」
「それも学校に報告してそれならば、と許可も頂いてます」
「なのに花ちゃん先生はバイトをやめろと言うんですか?」
「迸る情熱の為に生活を犠牲にしろと」
「爽やかな汗を生活費ではなく青春に変えろと」
二人で示し合わせたかのように順番に言葉を並べて矢継ぎ早にまくしたてる。もちろん示し合わせてなんかない。
『うぐぐ……』なんで呻きながら花ちゃん先生は返す言葉が無いようだ。
実際問題お金が無い。もちろん今すぐ貧困で死ぬ、みたいな瀬戸際に二人とも居るわけではない。
ないのだが、
片や卒業したら両親が離婚し独り暮らしをしなければならない高校生。もちろん生活費なんかは振り込んでくれるだろうがそこには『多分』の文字がつくほど冷え切った親子関係だ。
片や既に貯金の切り崩しと親類縁者の援助でなんとか食いつないでいる高校生。結構残ってるらしいがこの先どう転ぶか分からないのに心もとない。
まあ自分でも酷い差があるとは思うけれど、どちらも高校生が青春(笑)を窓から放り投げて地面に散らばってるのをニヤニヤ見つめるには充分な理由だろう。
「バイトやめろって言ってるわけじゃないもん……で、でもちょっと部活でもしてみたらどうかなーって」
「うわ、二十二にもなってもんとか言う人初めて見た」
「うわ、二十二にもなって口尖らせてる人初めて見た」
明らかにしょげかえって駄々っ子のようにポツポツと話す先生はとてもじゃないが成人してる女性には見えない。
ちょっとかわいいとか思ってない。引いてるだけだから。
こんな直接的に話してきた事はないけれどこれは遠回しにいつも先生が言ってる内容だ。その度のらりくらりと躱してきたけれど今回はこんなもんでいいだろう。
自分達二人はお互いに顔を見合わせて一つ頷いた。
帰ろう。今日も今日とてバイトがあるんだから。
「……私知ってるんだよ?」
荷物を拾い上げようとしていた二つの手がピタリと止まった。
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