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有栖川日向の目覚めは前後不覚に陥るほど酷いわけではないけれどあまりいいわけでもない。
後から思い返せばここから起きてたんだろうという時間を多分五分から十分目を瞑ったまま夢のようなものを見ながら過ごしてパチッと目を開ける。
これは目覚ましをセットしてないときの起床方法で目覚ましをセットしている時は騒音を止め、こちらも五分から十分程度ゴロゴロした後『よしっ』と気合を入れて一気に起き上がるのだ。
幸いにして今日、つまり昨日から見れば明日は不良じゃない方の意味で午前中サボるつもりだったので目覚ましはかけていないから必然的に前者の起き方になるはずなのに。
ドンッドンッドンッ、とそんな音がどこか遠くで聞こえてくる。その音に反射的にいつも目覚まし時計を置いているところに手を伸ばすが当然それは勉強机の上に鎮座している。手は空を切った。
「────────!」
かと思えばドンドンという鈍い音と交互に誰かの声のような音も飛び込んでくる。
まだ意識がはっきりしたわけではないが止まらない騒音というささやかな非日常に有栖川日向は眉をしかめながら目を開いた。
二人同時に向かい合わせで。
『……………………………は?』
たっぷりの沈黙の後有栖川日向は怪訝な声を上げる、というよりは勝手に口から音が飛び出したという方が正しいかな。
朝起きたら目の前に髪の長い自分が居た。あっちから見たら髪の短い自分が居る。
数秒固まった後、合わせ鏡のように向かい合ったまま体を起こしベッドの上に顔を付き合わせて座り込む。
『は?』
今度はキチンと怪訝な声だった。
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