学び舎に降る血の雨

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一卵性双生児の例えで出た環境の話ならそもそも二人は違うはずなのだ。 有栖川日向は男だ。弁護士の父とキャビンアテンダントの母の間に生まれ、両親の愛情こそ薄かったものの両親の職業柄お金には不自由なく暮らしてきた。しかし両親がそれぞれ別に相手を作って浮気をしていることが発覚し離婚調停中、その身柄は宙ぶらりんのままだ。 有栖川日向は女だ。所謂未婚のシングルマザーの子として父親の顔も知らず母親が女手ひとつで育てあげた。幼少期は貧困に悩まされたものの慎ましい中でしっかりと母親の愛情を受け取って育った。小学生になった頃母がブランドを起業し成功、生活は楽になったがその母は二年前交通事故で帰らぬ人となる。 全く違う、にも関わらず同じ人間なのだ。『似てる』どころの話ではない『同じ』だ。 姿形はもちろんそう。自分で言うと涙が止まらないが顔は中性的とでもいうのか?もし仮に自分が長い黒髪のカツラを被ればそれは目の前の有栖川さんになるし、有栖川さんが髪を短く切ればそれは有栖川君になるだろう。 身長も同じ一六七センチメートル。男にしてはちょっと低い、女にしてはちょっと高い。 体重は聞いたことないが恐らく一緒だろう、聞くことも多分ないけど。 加えて有栖川さんの胸は高笑いができるほどなだらかな丘陵なので男の自分と比べても違いがわからない程。 そんな自分と同じ顔をして同じ思考をして同じ行動をとる人間が目の前に居るとしよう。まあそんな珍事は誰も経験したことないだろうから簡潔に自分の感想を述べよう。 気色悪い、気味が悪い、吐き気がする、一周回って死ねよ。 そんなものが自分達がお互いに相手に抱いている感情である。
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