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「だからやめなよって言ってるでしょ!」
ポカポカという擬音がふさわしいような可愛らしい暴力が自分達二人に振るわれた。
『……………』
ギリギリとお互いに手に込める力は抜かないが首をぐりんと回しその甘ったるい声の持ち主の方を睨みつけた。
『ひっ!』と呻き声を上げるのは新卒の保険医桃山花教諭──花ちゃんだ。しかし花ちゃんはちっぽけな勇気を振り絞って未だ喧嘩を続ける生徒二人に立ち向かう。
「け、喧嘩はダメって言ってるでしょ!」
「喧嘩……?おかしなこと言うんすね花ちゃん先生」
「そうですよ花ちゃん先生、これは喧嘩じゃなくて挨拶。スキンシップみたいなのです」
自分達は不思議な顔を浮かべてお互いに向かい合う。目の前には自分と全く同じ顔があった。
「スキンシップ!?刃物使ったら危ないよ!?」
『…………』
自分達は必死にまくしたてる花ちゃん先生にまた口をつぐみ、お互いに顔を見合わせる。
……いやまあそう言われるとそうなんだけれど。
殺したいほどにうざったいは比喩でもなんでも無い、実際思ってる死ねばいいのにって。けれどここは過激派宗教組織が支配してる地域でも内戦の絶えない国でもなく平和な法治国家日本だ。
自分達は死ねとか口には出すけれどだからと言って実際に犯行に及ぶほど人生投げてない。実際カッターとかも構えただけですぐにその辺に放り投げたし。
心の中で『はぁー』と一つ息を吐く。自分が、ということは有栖川さんも今ため息をついているんだろう。
「────なんか白けたな。有栖川君後でロープあげるからきちんと首に巻くんだよ」
「────ああ、もういいや。有栖川さん食材を炭火で焼くと料理が美味しくなるらしいから今度やってみるといいよ、車内とかで」
憎まれ口を叩きながら自分達は散らかした室内を片付け始めた。と言っても自分達の荷物がちょっと散乱してる程度なんだけど。
『有栖川日向』は殺し合いは節度を持ってがモットーです。
特に自分達は何もしてないのにその様子を花ちゃん先生はビクビクしながら黙って見ていた。
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