100人が本棚に入れています
本棚に追加
寒い、寒い、寒い…
頭の中はただその一つの感情に占拠されていて、最寄のコンビニの自動ドアが開いて店内の暖かい空気が頬を撫でた時は仏様にでもマリア様でも、名前も知らない世界中の神様という神様全てに感謝したい気持ちだった。
かじかんで赤くなった手でホットのコーヒーを手にすると、普段感じる以上の熱が私の手をビリビリと刺激する。
絶対、絶対鼻まで赤いし…恥ずかしい…
なるべく顔を上げないように俯きがちに缶コーヒーをレジに持っていって財布を出したものの、手が思うように動かなくて、結局定期にチャージしてある分で支払った。
コンビニを出てお店の前で両手で持った缶コーヒーでしばらく手を温めてからコーヒーを口にする。
私の体の食道はここだとはっきり自覚するほど、温かいコーヒーが体の中を滑り落ちていくのを感じる。
まだ体の芯は冷えているものの、とりあえず生き返った、そんな気持ちで息をつくとふと傍らからの視線に気が付いた。
顔を上げて目が合ったのは、同じようにコンビニの軒下でホットコーヒーを手にしている男の人。
知っている、と言うほどではないのだけど完全に、全く知らない人ではないその人は少し気まずげに会釈してくれたので、私も同じように会釈を返した。
「寒いですよね」
彼はそういってコーヒーを一口飲んだ。
「はい」
私は泣きそうな気持ちでそれだけ返事をした。
「初めて来たんですよね?そんな薄着で寒くないんかなーってずっと思ってて」
私の気持ちを全部お見通ししたような言葉に余計に悲しくなった。
「もう、あんなに寒いなんて知らなくて…。寒くて寒くて死んじゃうかと思いました」
最初のコメントを投稿しよう!