桜の頃の。

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あれから、天文台にいけたのは2月の2回だけ。 バレンタインの前日に天文台に行った時は、街中は翌日がバレンタインであることに浮かれた恋人達であふれていたけど、それをものともせずに一人で町を駆け抜けた。 この日に会えたら、絶対フリーだし運命だと思ったのに…会えなかった。 3月に入ると、会社の送別会、部署の送別会、仲が良い同期だけでの送別会…よく考えたらなんで同じ人を3回も送らないといけないのかわからないけど、送別会と友達との約束で金曜日は全部潰れた。 そして私は今、久しぶりに金曜日の夜の天文台に来ていた。 桜の咲く公園の中にあるから、もしかしてこの時期は天体望遠鏡の開放はしていないかも、と思っていたけれど、桜がやっとほころびだした程度の今日はまだ公園は比較的静かだった。 天文台の入り口においてあったチラシを見ると、来週は桜祭りのため中止とかいてあった。 何度か来て判ったのだけど、この天体望遠鏡で星を見る会には親子の参加が多い。 一人出来ている大人はそんなに多くない。 だから、あの人が居たらすぐに判る。 星も見たけれど、私は居る人たちをじっくり眺めてしまう。 あの人は…居なかった。 天文台を出て、街灯の少ない公園の中をとぼとぼ歩く。 もしかして、転勤とかしちゃってもう会えないのかな… この時期、夜は冷える。それはお花見のときに散々思い知っているので今日はしっかり重装備で来ていた。 それでもたっぷり一時間天文台で星を見ていると身体はかなり冷えていた。 寒いからコンビニにって温かい飲み物でも買おう。 そう思った私の前に人影が現れた。 その人は走ってきたのか肩で息をしていて、ひざに手を添えてしばらく呼吸を整えてからゆっくり顔を上げた。 「よかった、また会えた」
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