桜の頃の。

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「よかった、また会えた」 そういってその人は、以前見せたのと同じ笑顔になった。 答えられない私の頭の中でその言葉が何度もめぐる。 「えっと、俺のこと覚えてない…かな?」 私の様子を伺いながら、その人は苦笑いして私を見た。 「結構前だけど、1月に…」 「そこのコンビニの前で一緒にコーヒ飲んだ人」 私が途中から言葉を引き継ぐと、その人は嬉しそうに顔をほころばせた。 「あれから何回か天文台いったんだけど会えなくて」 どうやら私とこの人は見事にすれ違っていたらしい。 「今日、職場の飲み会でさ。店向かってるとトコで。 金曜日だし、丁度天体観測終わる時間だったから」 少し遠回りだけど、走ってきた。とそういって彼は漸く息をついた。 今日は深緑色のパーカーにジーンズ。職場の飲み会と言っていたけど、スーツじゃないんだ…?とまじまじと見てしまった。 「来週の金曜日、俺空いてるんだ。だから…一緒に星見に来ない?」 「あ、来週は駄目です」 「…そっかぁ…」 来週の金曜日と考えた私の口から滑りでた言葉に、その人の表情が曇るのを見て、私は慌ててその人の言葉に続きを被せた。 「えっと、そうじゃなくて…。駄目なのは…天文台で… その…私は…あいて…ます」 私の言葉は尻すぼみになっていって、最後の方はきっと聞こえるか聞こえないか判らないくらいの小さな声になる。 聞こえたか不安になりながらチラリとその人を見上げると、イマイチ状況を理解していない顔をしていた。 「来週、天文台休みなの?」 私がこくこくと頷くと、その人は少し考え込んだ後納得したように声を上げた。 「あぁ、そっか。桜祭りか」 そういえば毎年休みだったわ、と一人頷いて私に視線を戻して、困ったような笑みを浮かべた。 「…天文台以外考えてなかった」 参ったなーと少し困ったような表情で笑うその人を見ていると、なんだか可笑しくなってきて、私もつられて笑ってしまう。 「お花見、とかしますか?」 「お花見、一緒にしてくれる?」 はにかんだ様なその笑顔に、私は小さく頷いた。 「時間、7時頃で良いかな?」 「はい」 「…じゃぁ、金曜日の夜に、天文台で」 「はい」 私、この人ときっと上手くいく。 返事をしながら、そう確信した。
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