花と実と甘い箱

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「あのっ」 ――朝、七時二十分。 犬の散歩をしている人を呼び止めました。 「何か」 その言葉は、短く深い意味など持たないけど。 「ぉ……はようございますっ!」 私の心をとても幸せにしてくれました。 「……おはようございます」 「……っ、はいっ、おはようございます!」 初めて聞いた声。 初めて出した勇気。 私の中で、細い茎の枝元に、小さな小さなまだ柔らかい膨らみが出来ました。 これはもしや、蕾でしょうか。 もしかしてもしかして、可愛い蕾の赤ちゃんでしょうか。 私は大事にそれを育てます。 毎日毎朝、栄養を与えます。 「あのっ」 「……何か」 蕾になれ、花になれ。 「……っ、き、今日も、お、おはようございます」 「……はい、今日も……おはようございます」 「はいっ、おはようございます!」 いつかきっと、実になってと。
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