花と実と甘い箱

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――朝、七時二十分。 犬の散歩をしているあなたを呼び止めました。 「あのっ」 「あぁ、おはようございます」 「あっ、はい、おはようございます」 これがいつもの始まりです。 私の一日を彩る、スタートです。 だけど今日の私は違うから。 足りなくなった栄養を苗にあげたいから。 「あのっ」 「……何か」 頑張れ私、頑張ってこの想い。 「……っこ、これ、受け取って下さいっ」 「……」 小さな箱を両手で包み、大きな想いを乗せてあなたに。 「……何」 「沢山の……想いです。ずっと持っていた……想いです。 あなたのことが……大好きです」 「……」 手が震え、声も震えて動けません。 吐き出した想いは行き場を知らずに止まっています。 「……ぁの」 「どうして」 「ぇ……」 勇気は。 「どうして……大好きなの」 「……」 あんなに固めた全部の勇気は。 「君、俺のこと、何も知らないでしょう」 何故こんなにも。 「名前も、歳も……性格も」 「……」 脆くて弱くて。 「受け取れない。……期待、持たせられないから」 一瞬で、粉々に砕けて消えてしまうのでしょうか……。
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