花と実と甘い箱

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伸ばした両手が、油が切れた機械のようにカクカク落ちる。 「それじゃ」 真っ直ぐと伸びた茎も、艶々に開いた葉っぱも。 もう……育たない。 「ど……ぅして」 立ち去ろうとする背中に呟いた。 「……何?」 振り返ったあながぼやけて見えない。 「……ぅして……っ、何も、知らないあなたを……こんなに……っ好き、に……ったのでしょう……」 「……」 「どう……し……っ、あなたを見つけ、る度……嬉しくて、苦し……っ」 「……君」 「どうし……っ」 もう。 「ごめっ……なさ」 甘い塊の入った箱が地面を跳ねる。 「おいっ!」 走り出した私の視界、人も、車も、陸橋も、温めた……想いも。 全てが……滲んで行く。 手がかじかむ。 頬をつたうものが冷たく顎を滑る。 何も見えない、何も聞こえない。 走って、走って。 行き場を見つけられなかった大きな想いが。 もう咲かない蕾の上に影を作る。 止まらない溢れるものが世界をぼやけさせ。 消せない想いだけが暗い場所に浮かんでる。 散ることさえ、出来なかった蕾はゆっくりと。 下を向いて、ころんと落ちた――。
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